通りすがりに、ちょっと降りて街歩きをした時のこと。
3年前かと思う。
イギリス、ケント州は風光明媚な地域で、美しいガーデンが多い。
この日はシシングハーストガーデンを訪ねる途中だった。
この街はメインストリーが広く、魅力的なショップが立ち並んでいて、思いの外賑わっているようだった。
相方とは「またここで30分後に」と、各々好きなところに時間を費やすお決まりのパターンで別れた。
快晴。さて、と一二歩歩いただけで、海外への憧れと旅の思い出を呼び起こすかけらが次々とあらわれた。
ショップはどこも楽しそうで、一軒一軒入っては出て入っては出て、時には買い物をして、時間を気にしながらも時間を費やしゆっくりテンポの午後である。
と、あるレンガ作りの建物が目にとまってまたも足を止めた。
「この植物なんだっけ?」
緑の蔓が壁面を覆っていて、オレンジの実がたわわになっている。
みたことがある、でも思い出せない。
はて?と足を止めてジーッと見ていたその時
「これが何かわかるかい?」と声がした。
その声と、その蔓に一つだけ残っていた花を見つけ「ああ!」と思い出したのとは同時だった。
振り返ると、先ほどから私と抜きつぬかれつして歩いていた杖をついた老人だった。ご近所で日課の散歩といった風情。
「パッションフルーツというのだよ」と、穏やかな口調で彼は教えてくれた
私も「日本では時計草と呼んでます」と、どんな英語だったか思い出せないけれど、そう言った。
日本から来たのかい、そうかいそうかい、じゃあね、
良い旅を
多分そんなやりとりをして別れたとおもう。
記憶はいつも薄らぎ違う形になる。
北海道では路地には咲かない植物がイギリスだと庭や田園に生えていて、
近い気候のように思えてもここが大きく違うと、時たま驚く。
旅の途中の花とささやかな交流の思い出が
またひとつ増えた。